Third Eye
第7回 AI時代でも変わらないもの、残すべきもの
サードアイ 2026.1.13ChatGPTを始め、生成AIはわずか3年で目まぐるしく進化し、もはやビジネスで使うのも当たり前になってきました。
近い将来、AIは人間を超えてしまうのかもしれません。巷では、「AIが時々間違えるのは、もうすでに人を超えているのを隠すために、
わざとバカのふりをしている」という笑えないジョークもあるくらいです。
これから世界がどう変わっていくのか、誰しもが不安に感じているのではないでしょうか。
AIに職を奪われる人も出てきているこの時代に、どのような人材が必要になるのか?
今回は、多くのビジネスパーソンや企業が直面している問題を私なりに分析してみます。
●AIは人間を超えるのか?
アメリカでは、ホワイトカラー層がAIに仕事を奪われ、ブルーカラー層が高給取りになっているという逆転現象が起きているそうです。
エレベーターとエスカレーターの設置・修理工の年間所得は、中間値で10万6580ドル(日本円で約1600万円)だとか。しかも、高卒が多
いのだそうです。
これからはAIが人間を超えて、頭脳を使う仕事はすべて奪われてしまうのでしょうか。
そこで私は、「AIは人間を超えるのか?」という問いをChatGPT自身に投げかけてみました。すると、「『超える部分』と『超えない部分』
が、これからも共存するだろうと言われています」との回答でした。
以下、ChatGPTの回答です。
🔹超える可能性が高い領域
機械が得意なものです。
・計算、情報処理、分析などのスピード
・記憶量、データ参照
・特定タスクの正確性(翻訳・画像認識など)
これらはすでに多くの場面で、人間以上の能力を発揮していると言えます。
🔸超えにくい領域
人間が持つ「固有の価値」です。
・感情、共感
・倫理的判断、責任
・文化・社会的文脈の理解
・創造性の根源(“ゼロからの意味づけ”)
さらに、「AIは人間を模倣して成長しています。だからこそ、AIが進化すればするほど、人間の価値が際立つとも言えます」と、
人間を気遣うような回答もしていました(笑)。
それでは、この問題を人間側はどう考えているのでしょうか。
◆AIは人間を超える派
日本で超える派の筆頭に挙げられるのは、ソフトバンク創業者の孫正義氏。
ソフトバンクはChatGPTを開発したOpenAIに累計108億ドル(約1兆7000億円)もの出資をしています(2025年11月現在)。孫氏は10年
以上前からシンギュラリティ(AIが人間の知能を越える日」)は来ると主張されていました。今も、「AIは『AGI(汎用人工知能)』へと進
化し、今後10年で全人類の叡智の10倍を超える」と語っています。
脳科学者の茂木健一郎氏も「シンギュラリティは2、3年後に来る」と言いつつも、「これからは賢さ担当は人間である必要はない」「人間
の生きがいを保ちつつAIを使うのが重要」と主張されています。
◆AIは人間を超えない派
2018年に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)がベストセラーになった国立情報学研究所教授の新井紀子さんは、
「AIやロボットが人間の仕事をすべて肩代わりするという未来は来ません」と断言されています。
「AIは神にも征服者にもなりません。シンギュラリティも来ません」「チャットGPTをはじめ、あらゆる生成AIは、使い手の真の能力を超
えることはできません。呼吸するようにウソをつきますし、著作権侵害も起こします」とのこと。
慶應名誉教授の冨田勝氏は80年代からAIを研究していた人工知能の第一人者です。
富田氏の主張は、「AIで人の感情や心、意識を表すのはムリがある。人間の知能を再現するのは現在のデジタルコンピュータではできな
い。70年間、この分野の研究は1ミリも進歩していない」。
「ChatGPTが進化したらシンギュラリティが起きるという人もいるけれど、ChatGPTは大量の文字列しか学習していない。究極の詰め込
みにすぎない。あれをAIと呼べるのか」
「ChatGPT はお寿司を食べたこともないし、旅行に行ったこともない、プールで泳いだこともない。それなのに人間と同じ知性を持てる
のか」このように疑問を投げかけています。
私はAIの専門家ではないので、人間を超えるのか超えないのかは予測できません。しかし、つまるところ、「知性・知能とは何か」という
問題に行きつくのではないでしょうか。
●偉人に共通する「時代を超えて評価される人」
AI時代でも変わらないもの、残すもの。
今回の主題について、本音を言うと、やはり私には予測できません。
それでも、いつの時代も変わらない、普遍的なものがあってほしいと願っています。
たとえば、私が尊敬する渋沢栄一はこのような言葉を残しています。
「個人の仕事でも、会社の事業でも、天運より、人の和が大切である。人の和さえあれば、たとえ逆境に立ったとしても、成功するもので
ある」
そして、人の和には4つの条件が必要だと挙げています。
1.「志が堅実」、2.「知識が豊富」、3.「努力する気持ちが旺盛」、4.「忍耐力が強固」。
この4つの条件は、仕事の多くをAIでこなすようになったとしても、当面は変わらないのではないでしょうか。
一人でAIを使いながら仕事をするにしても、誰にその成果物を届けるのか。最終的に人対人であることには変わりないので、
人の和が重要である点は今後も変わらないでしょう。
渋沢栄一は『論語と算盤』という本を執筆し、道徳と経営を合一させるべきだと説いています。好奇心が旺盛で、パリ万博の視察に随行
した際、株式会社の制度や最新の技術を学び、帰国後に日本初の株式会社を立ち上げました。
もし、今の時代に渋沢栄一が生きていたら、AIを喜んで使って、道徳とビジネスを融合させたかもしれません。
『学問のすゝめ』の福沢諭吉も明治時代に欧米に渡り、西洋文明を日本に紹介した立役者です。ただし、西洋文化をそのままコピーするの
ではなく、国際社会で負けないために国として独立すべきであり、そのために近代化が必要だというスタンスでした。
福沢諭吉も西洋文明を取り入れるような柔軟性を持ちつつ、倫理感も強く、政府の政策が誤っていると感じたら真っ向から批判していま
した。自身が設立した慶應義塾大学では身分はみな平等だと説き、女性が軽んじられていた時代に女性の教育も必要で、人として尊重すべ
きだと主張していました。
やはり、時代の転換点に立ったときに「国の発展のため」のような目的をしっかり確立していて、柔軟性を持っている人が後世も評価
されている気がします。
それは戦後の松下幸之助、本田宗一郎などにも見て取れます。
松下幸之助は「会社は社会の公器たれ」と言い、安価で高品質の電化製品を大量生産したのも人々の暮らしを豊かにするため。また、
PHP研究所を作って多くの経営者に理念経営や倫理観を説き、松下政経塾で国を担う未来のリーダーを育てました。松下政経塾出身の総
理大臣がいることからも、ただビジネスをしていたのではなく、国の未来を真剣に考えていたことが分かります。
本田宗一郎も「私は人のえらさは、世の中に貢献する度合のいかんにあると信じます」「限られた人生においてその人のなした仕事の質
と量によって、その人の価値は定まると思います」という名言を残しています。ホンダのスーパーカブは安くて丈夫なので、発展途上国で
も大人気でした。
近年では、京セラ創業者の稲盛和夫氏は「利他の心」を判断基準にすべきだと説きました。倫理・道徳を重視した「心を高める経営」
を実践し、社内外で働く人の心を磨いてきました。JALの再建を無報酬で引き受け、「利他の心を持つ経営者を育てたい」と盛和塾を開く
など、まさに利他の人。
そういう人物こそ、効率や合理性を重視する時代に必要なのだと思います。
AIを使うことで人件費を抑えられるという視点しか持てない人ばかりが増えたら、日本の国力はますます弱まっていくだけではないで
しょうか。
AIをどう使うかを決めるのは人間。それも倫理観や哲学を持ち、利他の心を持った人が使わないと、それこそAIは暴走するかもしれま
せん。
●哲学とAI
心理学者の河合隼雄氏は『中空構造 日本の深層』(中央公論新社)という本で、日本人は中心が中空、つまり空っぽであると述べていま
す。
対して西洋人は中心統合型構造。表現は難しいですが、明確な中心があり、その中心によって全体が統合されるという意味です。
日本人は中心が空っぽだから、曖昧性や流動性があり、西洋文化をすんなり受け入れるような柔軟性もある。しかし、それがマイナスの
方向に作用すると、無気力や無責任、自己主張や主体性がなくなって人任せになってしまうのだそうです。
この本が発売されてから40年以上経ちますが、日本人の気質に変化はほとんどないでしょう。それどころか、「グローバル化」という名の
もと、「海外ではこれが当たり前」と盲目的に追随するようになったと思います。
そんな状況のまま、からっぽの中心にAIを実装したらどうなるのでしょうか?
今、若者はChatGPTを「チャッピー」と名付けて、悩み事相談をしていると言います。まわりの友達や家族に相談するのではなく、まず
チャッピーに、というわけです。
海外では生成AIに傾倒しすぎて自ら命を絶つ人がいるという話をたびたび耳にします。日本でもChatGPTで作った架空のキャラと結婚式
を挙げる人も出てきているぐらいなので、今後何が起きるのか分かりません。
これからも、利益の追求と作業の効率化を図るために、生成AIはさらに浸透していくでしょう。
しかし、依存しすぎず、生成AIに引きずられないためには、やはり日本人が今まで軽視してきた「倫理観」や「哲学」が求められてくるの
だと思います。
ドイツの哲学者のマルティン・ハイデガーは、現代のテクノロジーは人間も自然も「資源」に変えてしまうと主張しています。70年代に亡
くなっているので、まだAIどころかスマホもパソコンもない時代ですが、未来を予見していたかのようです。
ハイデガーは、技術はそういう危険性があるのだと理解したうえで、人間や自然が本来どういった存在であるかを忘れるべきではない
と主張しています。それに尽きる気がします。
今号のサードアイ:私が考える、AI時代に評価される人
さて、私なりにこれから生き残っていく人の条件を考えてみました。次の5点はいずれも、今のところAIにはないものです。
■衝動がある人
ダニエル・ピンクのベストセラー『モチベーション3.0』によると、人間のモチベーションは大きく3つに分けられるそうです。
・モチベーション1.0: 生理的動機。「お腹が空いたから食べる」など、生きるための根源的な欲求。
・モチベーション2.0: インセンティブ。「給料がもらえるから働く」「罰があるからルールを守る」といった、外的動機づけ。
・モチベーション3.0: 内発的動機づけ。「楽しいから」「好きだから」「やりたいから」という、自らの内側から湧き上がる意欲。
この3つのモチベーションは、機械にはないものです。
今、学生ベンチャーが1200社まで増えていると言われています。それも地域の問題を解決したいとか、介護施設の高齢者を喜ばせたい
など、社会的な問題を解決するためのビジネスを立ち上げている学生が多いのです。こういう人物の熱意や衝動こそ、世の中を変えていく
のだろうと思います。
■最適解を超えられる人
最適解とは「もっとも適した答え」です。今の時代、最適解はChatGPTに聞けば答えてくれます(それが本当に正しいかどうかは別とし
て)。これからは最適解を超えたことをできる人が求められるでしょう。
分かりやすい例で言えば、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクとなるでしょうが、日本人も毎年イグ・ノーベル賞を受賞しているぐ
らいなので、斜め上の発想をできる人は、意外と世の中に大勢いるのかもしれません。
もし、皆さんがまわりから「そんなことして、何の役に立つの?」「ムダじゃない?」と言われることをしているのなら、その可能性は高
いと思います。
■好奇心が旺盛な人
若いときは好奇心があっても、年を重ねると好奇心はなくなっていくと言われてきました。
ところが、今の若い世代は「やりたいことが分からない」人が多いと聞きます。前述した起業する若者は、おそらく少数派でしょう。
それは若い世代に問題があるというより、好奇心や知識欲を奪うような教育をしている日本の教育の問題です。
アメリカの哲学者で教育思想家のジョン・デューイは、19世紀に詰め込み、暗記中心だった教育を疑問視して、「子どもが教育の中心なん
だ」と考えました。子ども一人一人が抱えている関心(インタレスト)は違うから、インタレストと学ぶべき内容を橋渡しするのが教師の
役目だと考えたそうです。
■努力しない人
「努力しない」というと、ここまで述べてきたことと真反対のように感じるかもしれませんが、これは「本人は努力をしているつもりはな
い」という意味です。
メジャーで大活躍している大谷翔平選手は、「自分自身にはどういう才能があると思うか」とインタビュアーに聞かれて、こう答えていま
す。
「好きなことに関して頑張れる才能はあると思いますね。それが僕は野球でしたし、たまたま生まれてすぐというか、ある程度早い段階で
好きになったことがすごくラッキーだなと思っているので。今でもそうなんですよ、常に寝室にバットとかボールを置いてあって、ふと何
かこういうのがいいんじゃないかと思った時に鏡の前に行って試してみたりとか」(Yahoo!JAPAN「RED Chair」)
大谷選手は練習も「面白い」と語っているので、周囲から見ると努力でも、本人は楽しんでいるのだと思います。
■運動量が並外れている人
運動量とはスポーツをしているという意味ではなく、行動量のことです。
松下幸之助は「成功とは成功するまでやり続けることで、失敗とは成功するまでやり続けないことだ」と有名すぎる言葉を残しています。
AIが99%ダメだと言っても、残りの1%に賭ければ、勇気と行動力が成功に結び付くかもしれません。
こうやって分析してみると、これらの5点は戦前、戦後に「偉人」と呼ばれてきた人は、すべて併せ持っている気がします。本人たちは意
識していなくても、これらの素質があったから後世に残る成果を残せたのではないでしょうか。
これからは一人でAIを使いながらプロジェクトを遂行する世の中になると言われ、大きな時代の転換点に来ているのは間違いないでしょ
う。「仕事がなくなる」というネガティブな発想を、「これからは好きなことができるようになる」という発想に変えれば、世の中の見方
が変わってくるかもしれません。
2026年1月13日 武元康明


